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コミタス・カルテットとアルメニア

 このたびアルメニアから、作曲家 ”コミタス” の名前を冠する弦楽四重奏団が来日する。こう書いても、そもそもコミタスという名にピンとこない人も多いかもしれない。

 アルメニアは、ノアの箱船が着いたというアララト山を有する、ワインが美味しいコーカサスの国だ。そのアルメニア人の作曲家と言えば、真っ先に”剣の舞”や ”仮面舞踏会” で有名なハチャトゥリヤンの名前が浮かぶであろう。激烈なリズムと力強いオーケストレーションの音楽は、多くの人々に親しまれている。

 しかし、その一方で、〈アルメニア音楽の父〉と言われる、シブい作曲家の存在がある。それがヴァダペット・コミタスなのだ。彼は、アルメニアの民謡を採取しつつ作曲を行っていった人で、その音楽は穏やかで美しいメロディに彩られている。アルメニアの民族音楽は5音音階なのだが、決してそれに縛られたものではなく、西洋の様式をふまえた、精神性の高い音楽だと言えよう。

 彼は、早くに両親を亡くし、神学校生活を続ける中で、やがて修道士になるという異色の人生を歩んだ。1915年オスマントルコによる虐殺時、イスタンブールにいた彼は検挙され僻地に送られてしまう。移送先で殆どのアルメニア人が亡くなる中、奇跡的に生き残れたものの、神経を患い、長く精神病院で過ごすことになった悲劇の作曲家だ。

 そのコミタスを讃えて、名前が付けられた四重奏団が、「コミタス国立弦楽カルテット」!。アルメニアがまだソビエトの一部だった時代、海外公演の許諾を最初に得た楽団であり、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、日本—と世界的に活躍してきた。アルメニアでは国家賞も受賞している。  その演奏は情熱的であり、アンサンブルも精緻だ。各々のメンバーはソリストとしても活躍しており、優れた技術と高い音楽性が素晴らしい。とりわけ、お国自慢のコミタスやミルゾヤンと言った作曲家の曲を演奏する時、その真骨頂は発揮されるが、ベートーヴェンをはじめとするヨーロッパの作品でも、そのアプローチは目を見張るものがある。

 今回の日本公演、どのような演奏を披露してくれるのだろうか? 楽しみでならない!

中島克磨(なかじま かつま=作曲家)

「日本とユーラシア」2014年9月号

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