Font Size

Cpanel

コミタス生誕145年に寄せて

 「アルメニア音楽の父」として祖国を共にする多くの同胞たちに尊ばれ、ドビュッシーやフォーレ、サン=サーンスなどからの賞賛と敬愛を受けた音楽家であり、アルメニア正教会に仕える敬虔な修道士であったコミタス。彼の残した膨大な音楽遺産は、アルメニア芸術の深遠な歴史において最も際立った光明を放つ宝庫の一つである。

 今年生誕145年を迎えるコミタスの御前にささやかな花を手向けたいとの思いから、ヤマハ銀座店、そしてアルメニア大使館と日本アルメニア協会のご協力を得て、自身のリサイタル「コミタス生誕145年に捧ぐ」を開催させて頂いた。プログラムは、コミタスの数少ないピアノ作品の一つである「舞曲集」をメインに据え、後世のアルメニア人作曲家たちによるコミタスの歌曲に基づくパラフレーズ集を前半に、コミタス芸術からの多大な精神的影響を受けた作曲家たち、ババジャニアンやアルチュニアンらによる作品を後半に配した。なかでも、コミタスの舞曲集はアルメニアピアノ音楽史の中で最も美しく、豊かな光を湛えた音楽であるが、もしも神々の世界というものを垣間見ることができ、彼らの舞踏を彩る奏楽を耳にすることができたとするならば、それはきっとこのような響きを持つものであるに違いない。 詩人バイロンはアルメニア語を「神々の言語」として尊んでいたと伝えられるが、コミタスはまさに神々と我々人間との精神的交信の偉大な仲介者であり、彼が自らの魂を削るようにして世に伝えた響きの世界を探求し、この時代を共にする同胞たちとその音楽を分かち合えることの幸福を糧に、今後も精進を続けてゆきたい。

秋場敬浩(あきば たかひろ=ピアニスト)

「日本とユーラシア」2014年8月号

現在地: Home 活動・事業 コミタス・カルテット2014 コミタス生誕145年に寄せて